最終更新日:2025.06.12
大規模修繕 

マンション大規模修繕の見積書を解説!取得方法と見方のポイントは?

マンション大規模修繕の見積書を解説!取得方法と見方のポイントは?

マンション大規模修繕工事の見積書をご覧になったことはありますか?

おそらく「一度も見たことがない」という方がほとんどかと思います。一方で、過去に大規模修繕工事をご経験された方の中には、「数十枚にも及ぶ書類には専門用語や金額がびっしり書かれていて、読み込もうと思っても何がなんやら…」というご経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。

大規模修繕工事を実施することが決まると、組合員の大きな関心を集めるのがその費用についてです。工事金額を確認するには工事見積を取得することになりますが、そもそもどこに依頼をすればよいのでしょうか?まずは、管理会社に相談してみますか。それとも工事会社を探して連絡してみますか。

本記事では、大規模修繕工事の見積書を取得するまでの流れや見積書の見方について確認していきましょう。基本的な内容になっていますので、初めて理事や修繕委員になった方やこれから大規模修繕工事を控えているマンションの方も参考にしていただければと思います。

 

大規模修繕工事の見積り作成の流れ

まずは大規模修繕工事の見積書を作成するためにはどういった準備が必要なのか、大まかな流れを確認しておきましょう。

ステップ1:建物の状態確認

理事会や修繕委員会を立ち上げ、大規模修繕工事を実施することが決まると、まずは建物のどこにどういった劣化症状や不具合が現れているのかを確認するために「建物診断」を実施します。適切に直すためには、まずは建物の状態をきちんと知ることが大切です。建物診断は工事予定時期のおおよそ1年~1年半位前に実施します。

ステップ2:工事の内容を決定する

建物診断の結果をもとに必要な修繕項目を洗い出し、工事の範囲を検討します。外壁塗装や防水工事などの基本的な修繕項目と併せて、サッシ交換などの機能改良工事を加えるのか、また、マンションによっては耐震補強工事を実施するのか等々、大規模修繕工事の原資となる修繕積立金の状況も踏まえて工事内容を決定していきます。

ステップ3:仕様書を作成する

決定した工事内容をもとに「仕様書」を作成します。建物のどの部分を、どういった工法で、どの材料を使用して補修するのか、工事の内容を現場での実務的なレベルまで落とし込んでまとめた書類です。

ステップ4:内訳書を作成する

仕様書が出来上がると、いよいよ見積書のベースとなる内訳書を作成します。仕様書や建物の図面、実際に現地で確認したマンションの状況などから、仕様書の内容通りに工事を実施するには、材料がどれくらい必要なのかを算出し、内訳書に反映させていきます。例えば、「タイルの張替え」を「〇〇枚」、「外壁の塗装」を「〇〇㎡」といった具合です。見積書の金額が入っていない状態と考えるとイメージしやすいかもしれません。

ステップ5:内訳書に金額を入れる

内訳書の準備ができると、ようやく見積書のベースが完成しました。あとは、内訳書に記載されたそれぞれの項目について金額を入れていくと見積書の完成です。

以上がおおまかな流れになります。建物の規模や工事の内容によっても変わってきますが、一般的な目安として、建物診断から見積書が完成するまでで半年~1年程度、工事着工までには1年~2年程度かかります。大規模修繕工事の一般的な項目のほかに、サッシの交換や給排水管の改修などの追加工事を検討している際は、さらに検討事項も増えますので、余裕を見て早めに動き始めましょう。

パートナーの決定が、見積作成の第一歩

ここまで、見積作成の流れをごく簡単に見てきました。ただし、これら一連の作業を管理組合だけで行うことはほとんどありません。専門的な内容がとても多いので、一般的には管理会社やコンサルタント、設計事務所、施工会社などが専門家の立場で携わり、管理組合の皆様と一緒に計画を進めていきます。

前項で確認した建物調査、仕様書、内訳書等を専門家が作成し、途中途中で理事会や修繕委員会の皆様とのお打合せを繰り返して内容の精査を重ね、工事見積書を完成させていきます。

つまり、管理組合の皆様にとっては、この専門家=工事のパートナーをどこにするか決定することが見積作成の第一歩となります。

それでは、ここからはパートナー候補となる専門家について代表的な例を見ていきます。

1.管理会社-管理会社元請方式

まず最初は、管理会社に依頼をするケースです。多くのマンションでは日常管理を管理会社に委託していると思いますが、大規模修繕工事も最初に管理会社からの提案があって動きだしたというのもよくあるきっかけの1つです。管理会社をパートナーとして建物診断や仕様書・内訳書を作成し、工事についてもそのまま管理会社に依頼をするか、管理会社が工事部門を持っていない場合は系列もしくは外部の施工会社を選定して工事を行います。こうした進め方は「管理会社元請方式」や「管理会社方式」と呼ばれています。

2.コンサルタント、設計事務所など-設計監理方式

大規模修繕工事のコンサルタントや設計事務所をパートナーとして、建物診断や仕様書・内訳書の作成を依頼する場合もあります。こうした会社は工事部門を持っていませんので、施工会社は改めて選定する必要があります。コンサルタントや設計事務所は専門家の立場でのアドバイスを通じて管理組合をサポートし、実際の工事が始まると監理という立場で、工事が仕様書どおりに正しく行われているか施工会社を管理・監督してくれます。こうした進め方は「設計監理方式」と呼ばれています。

3.修繕専門の施工会社-責任施工方式

建物診断や仕様書・内訳書の作成、工事まで全ての工程について、施工会社をパートナーとして工事を進めることも可能です。こうした進め方は「責任施工方式」と呼ばれています。実際に工事をする会社が準備段階から深く関わってきますので要望がダイレクトに伝わり、やりやすさにもつながる部分です。一方で、施工会社は専門である工事の技術以外にも幅広い知識や対応力が求められますので、工事の準備段階を含めた大規模修繕工事全体の事情に通じた実績のある施工会社を選ぶことが大切になります。

パートナー選びは、工事を左右する重大な検討事項

他にもマンション管理士や新築時のゼネコンなども候補として考えられますが、パートナーは大規模修繕工事の準備期間だけではなく、工事が終わるまで管理組合とタッグを組んで一緒に走っていくことになります。パートナーとしての役割をどこに依頼するかは、工事全体を左右するとても重要な判断になりますのでしっかり検討しましょう。

上記で紹介した「管理会社主導方式」「設計監理方式」「責任施工方式」は大規模修繕工事の代表的な発注方式とされています。詳細はこちらの記事もご一読ください。それぞれのメリット・デメリットもしっかり理解し、より自分たちのマンションに合った発注方式を選べるようにしましょう。

発注方式については、こちらの記事もご参照ください。
責任施工方式とは?設計監理方式・管理会社元請方式との違いや特徴を解説

大規模修繕工事の見積項目

次に見積書の中身を見ていきましょう。

一度、ご覧になった方ならわかると思いますが、大規模修繕工事の見積書はA4用紙1枚に簡潔にまとまっているというケースはぼぼありません。実際には50戸規模のマンションで20ページ、30ページ、団地や大型のマンションでは100ページを超える枚数になる場合もあります。

細かなところは専門的すぎますし、見積書の書式によって書き方が多少変わってきますので、ここでは大規模修繕工事で実施されることの多い一般的な項目を中心にご紹介します。まずは大きな項目を見て、どういった工事のことなのかイメージできるようにしましょう。

1.共通仮設工事

工事期間中、マンション敷地内に設置する仮設物に関する工事です。例えば、敷地の周囲を囲う柵や工事で使用する資材の置き場、現場代理人や作業員が使用する現場事務所など、補修作業には直接関係しませんが現場の運営に必要な仮設物を設置する工事です。

・敷地周囲に設置する柵
・現場事務所、仮設トイレ
・事務所の備品類
・資材、廃材置き場
・電気、通信、水道設備
・駐車場費(工事に伴い一時移動が必要な場合など)
・官公庁への届出・申請費
・警備員費
・植栽選定費(工事に影響する箇所の枝払い) など

2.直接仮設工事

工事期間中、マンションの周囲に建つ足場に関する工事です。足場の設置や撤去、足場の周りに貼るメッシュシート、落下物から通行人を守るため防護棚、汚れや傷から守るための養生などの費用が該当します。工事完了後は撤去してしまう設備ですが、工事の安全と品質を守る上で欠かせない設備です。

・足場の設置、解体費
・足場周囲を覆う飛散防止用メッシュシートの設置
・足場の上下階移動時に使用する階段設備
・落下防止設備、防護棚(開口部養生、朝顔養生、眉間ネットなど)
・足場資材の運搬費
・足場設置、撤去時の警備員費 など

3.下地補修工事・タイル補修工事

建物全体に現れているひとつひとつの劣化箇所を直す工事です。下記に代表的な症状をあげましたが、ひび割れ一つをとっても大きさや状態によって適切な対処法は変わってきます。対処が甘いと症状の再発にも繋がるため、建物の耐久性や仕上がりにも関わる重要な工事です。

・ひび割れ

幅や深さのある大きなものから、0.3㎜に満たない細いものまで、足場を立てた後に建物全体を確認し、ひとつひとつ拾い上げて補修をします。ひび割れの具合や発生箇所、幅や深さなどによって複数の工法を使い分けて対応します。

・欠損

外壁等の一部が欠けてなくなっている状態です。欠けた部分をモルタル等で埋め、形を整えて補修をします。タイルの場合は張り替えます。

・鉄筋爆裂

鉄筋コンクリート造の建物は、コンクリートの内部に鉄筋が埋め込まれています。その鉄筋が錆びて膨張し、まわりのコンクリートを押し割っている状態です。割れが大きくなると中の鉄筋が外部に露出したり、周囲のコンクリートが剥がれ落ちてしまう場合もあります。錆びを落とし、錆止め処理を行った上でモルタル等で形を整えて補修をします。

・浮き

外壁タイルや塗装面と建物本体との間に空洞ができている状態です。接着していない不安定な状態なので、何らかの衝撃が加わると下地と一緒に剥落する危険があります。タイルを張り替えたり、空洞を埋める処置を施すことで補修が可能です。

・脆弱塗膜

経年により塗り付けた塗料が脆くなってしまっている状態です。一旦塗膜をはがし、新たな塗料がしっかり定着するように下地を整えます。

4.シーリング工事

サッシ廻りと壁の間などに充填されているゴム状の素材をシーリング材といいます。隙間を埋め、水の侵入を防いだり気密性を高めるために使用されていますが、経年とともに固く痩せてきます。シーリング工事ではこの痩せたシーリング材を撤去し、新しく充填する工事です。見積書にはm単位や箇所数で記載されます。

シーリング材はサッシ廻りに限らず、建物の至る所で使われており、外壁の目地(継ぎ目)などもその一例です。しかし、こうした場所は足場がないと補修工事ができません。そのため、シーリング工事は大規模修繕工事で足場が建つタイミングで行いましょう。その方が経済的です。

5.外壁塗装工事

マンションの外壁や廊下、階段、バルコニーなどの内壁、各所上裏(天井)などの塗装工事です。まずは壁面を洗浄して汚れを落とし、きれいになったところで上から塗料を塗り重ねます。

また、一旦全ての塗膜層を剥がし、下地を出した状態で、新たに塗装をし直す場合もあります。ある程度築年数が経ち、何度か大規模修繕工事を行っていると、塗装が二重、三重と塗り重ねられていきます。すると過去に塗り重ねられた塗料に新たな塗料の重さが加わり、塗装が壁から剥がれ落ちてしまう場合があるからです。こうした場合は元の塗膜を剥がした上で、新たに塗り直す必要があります。

6.鉄部塗装工事

扉枠や消火栓ボックス、樋や柵など、鉄製の製品の補修工事です。発生している錆びを落とし、防錆処理を行った上で塗装をします。鉄部塗装工事の見積項目内には「ケレン」という言葉がたびたび登場しますがこれは錆を落とす作業のことです。

7.防水工事

屋上やバルコニー、庇、外部に面している階段や廊下の床など、雨に晒される場所を保護し、建物内部への水の侵入を防ぐ工事です。現在の防水層の状態や施工箇所によって、複数の工法を使い分けます。ここでは代表的な工法を3つ紹介します。

・ウレタン塗膜防水

液状のウレタン防水材を下地に塗り重ねることで、防水層を作る工事です。材料が液状のため、継ぎ目のない美しい防水層が出来上がります。凸凹の多い場所でも柔軟に対応できるため様々な場所で用いられる工法です。
補強のため、下地と防水層の間にメッシュシートを入れる「メッシュ工法」や下地が含む水分を逃がす処置がされた「通気緩衝工法」なども工法の一種です。

・塩ビシート防水

シート状の防水材を貼り付けて行う防水工事です。塩ビシートは色や柄のバリエーションも豊富で意匠性が高いことから、廊下や階段、バルコニーなどでもよく用いられます。
接着剤を使用してシートを固定する「接着工法」、専用の金具を用いて固定する「機械的固定工法」、また平らな床面を塩ビシートで施工し、形が複雑な側溝などはウレタン塗膜防水で施工する「複合工法」などがあります。

・アスファルトシート防水

アスファルトをコーティングしたシートを張り付けていく工法です。アスファルト防水は耐久性が高いことから、日射や雨風の影響を直接受ける屋上などでよく採用されています。
アスファルトシートをバナーで炙りながら接着していく「トーチ工法」や熱を用いず常温で施工する「冷工法」などがあります。

・保護塗装

保護を目的とするトップコートを防水層の上に塗布する工事です。トップコート自体には防水性能はありませんが、紫外線や摩耗から防水層を保護し、耐久性を高める役割があります。
現在の防水層の状態が良い場合には、防水工事自体は行わず、保護塗装のみを実施する場合もあります。

実数清算とは

最後に、工事項目ではありませんが「実数清算」という言葉をご紹介します。大規模修繕工事の見積書を細かく見ていくと、備考欄などに「実数清算」という記載がされている場合があります。これは、見積段階では仮の数量が入っていて、実際に工事が始まってから最終的な工事数量が確定する項目です。

例えば、外壁タイルなどは建物診断の際に目視で確認はしますが、足場がないため確認できる範囲には限りがあります。そこで、見積書の段階では一定の範囲内で発生しているタイルのひび割れや浮きなどの状態をもとに、建物全体でどれくらいの数量になるのかを仮の数量で割り出し、内訳書に反映させます。そして工事が始まり、足場が建った段階で改めて外壁全体を確認し、正確な数量を算出していきます。

そのため、大規模修繕工事では、見積書に基づいた契約時の金額と工事完了時の最終金額との間で増額・減額が発生するのが一般的です。これは、この実数清算項目や、工事が始まってから新たに発生した追加工事や実施を取りやめた除外工事などがでてくることも多いためです。もちろん、こうした金額の変動や追加・除外工事などは、工事が始まった後の打合せで施工会社から報告が上がり、管理組合の承認を経て進めていきます。

ベストな見積依頼先は?

ここまで、大規模修繕工事の見積書について見てきました。見積書の作成は工事の準備をしていく中での大きな肝ですが、見積書は作成するにも、出来上がったものを比較検討するにも専門的な知識が求められます。だからこそ、管理組合にとっては、パートナーとして一緒に動いてくれる専門家の存在がとても大切になります。

本文の中では代表的な3つの候補(管理会社、コンサルタント/設計事務所、施工会社)を例にあげましたが、どの専門家に依頼をすればいいのかわからないという場合は、まずは検討できるようになるための知識を身につけましょう。マンション内やお知り合いで過去に大規模修繕工事を経験された方がいれば、当時のお話を聞いてみるのもいいかもしれません。

マンションそれぞれに個性があります。隣のマンションの正解が自分達のマンションにとっての正解とは限りません。身に着けた知識と自分達のマンションの特徴を踏まえ、どういったパートナーが最適なのか、管理組合内でも議論を重ねましょう。それぞれのメリット・デメリットをしっかりと理解し、自分達のマンションにとってベストな依頼先を選択できるようにしましょう。

※大規模修繕工事の発注方式については、こちらの記事もご参照ください。
責任施工方式とは?設計監理方式・管理会社元請方式との違いや特徴を解説

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