最終更新日:2023.06.14
建物診断 

大規模修繕工事の前に建物診断が必要な理由とは?内容や流れを解説!

大規模修繕前の建物診断は必要?診断項目や実施のメリットを解説

一般的に、大規模修繕工事の事前調査として実施されることの多い建物診断ですが、工事実施時期の判断や長期修繕計画の見直しにも役立てることができます。では、具体的に建物診断ではどのような内容の調査が行われるのでしょうか。

本記事では、建物診断が必要な理由や、建物診断の内容、流れ、実施のタイミングなどを解説します。

建物診断が必要な3つの理由

まずは、建物診断の主な目的を3つ確認していきます。

1. 建物の現状を把握し、工事内容に活かすため

大規模修繕工事では、共用部を中心に外壁や屋上など、建物全体の補修工事を行います。そのため、事前に建物に発生している劣化の症状やその程度など、専門家の視点でしっかりチェックすることで、現状により即した工事内容を組み立てることが可能になります。

実際の状況に基づいた適切な工事を実施することは、建物のパフォーマンスを向上させるだけでなく、急を要する箇所を適切に修繕し、状態の良い箇所は保全するなど、工事にメリハリを持たせ、修繕積立金を必要な工事に効果的に充てることにもつながります。

修繕積立金はマンションを維持管理していくための大切な資金ですので、最大限の効果を得られるよう大切に使用しましょう。

2. 大規模修繕工事の時期を判断するため

分譲マンションでは、通常12~15年位ごとに大規模修繕工事が実施され、その時期は各マンションの長期修繕計画に基づいて予定されています。

多くのマンションでは、工事が始まる1年~1年半位前になると建物診断が実施されます。そのまま長期修繕計画書通りのタイミングで大規模修繕工事を実施する場合もありますが、中には建物診断の結果を受けて、改めて工事の実施時期を再考するマンションもあります。建物診断によって建物の状態を正確に把握できれば、建物にとって無駄のない適切な時期に大規模修繕工事を行うことができます。

また、個人が所有するビルや賃貸マンションでは、そもそも長期修繕計画自体が作成されていない場合もあります。こうした場合には、修繕の時期を判断するだけでなく、コンクリートの状態から建物の寿命を予測し、修繕して使用し続けるのか、建て替えるのかなど、資産管理の方向性を決定するための判断材料としても活用されます。

3. 長期修繕計画の見直しのため

長期修繕計画は、25年や30年といった長期間にわたり、今後の修繕工事の内容、時期、費用などをあらかじめ想定して計画されるものです。分譲マンションでは、この計画書をもとに資金計画を検討し、各居住者(区分所有者)が支払う月々の修繕積立金の金額を決定します。

しかし、長期修繕計画の作成時には、当時の状態を適切に反映させていても、建物の使用状況や工事費用の変動、突発的な工事の発生など、さまざまな要因が影響し、時間の経過とともに計画がずれてしまうことがあります。

そのため、おおよそ5年ごと位で建物診断を実施し、長期修繕計画の内容を見直すことが推奨されています。資金計画に無理が生じていないか定期的に確認し、将来的に資金不足が予測される場合には修繕積立金の金額変更などの対策を早めに検討することが必要です。

建物を長期間にわたり健全に維持していくためには、長期修繕計画を適切に管理することが不可欠です。しっかりと管理していきましょう。

建物診断の項目

建物診断にもさまざまな診断項目があり、実施する調査は知りたい内容によって変わってきます。そのため、すべての項目を実施するのではなく、目的に応じて必要な内容を組み合わせて実施するのが一般的です。

図面などの確認

図面などの確認は事前調査とも呼ばれ、建物診断を実施する前に竣工図面やこれまでの修繕履歴などをもとに行われる調査です。建物の構造や付属設備、使用状況などを確認し、建物の特徴や現状を整理します。

アンケート調査

アンケート調査では、建物の居住者に対してアンケートを実施します。バルコニーの状態や漏水の有無など、日常生活の中で気づいた問題点や意見を集め、建物に発生している劣化状況を把握します。

目視・打診調査

目視・打診調査

目視・打診調査では、調査員が現地を訪れ、外壁や廊下、屋上などの共用部分を中心に劣化や故障の状態を調査します。ひび割れなどの発生状況を目視で確認するだけでなく、打診棒と呼ばれる器具を使って壁面を叩いて調査します。

タイル面や塗装モルタル面は経年劣化によってコンクリート躯体との間に隙間ができることがありますが、こうした症状は外見では確認できません。打診調査では、壁面を叩いた際の音の変化から内部の状態を判断します。

仕上材付着力試験

仕上材付着力試験

仕上材付着力試験は、タイルや塗膜などの仕上材がコンクリートの躯体部分にしっかりと接着しているかを調べる機械調査です。目視・打診調査で問題のなかった壁面を使用して計測します。仕上材とコンクリートの付着強度が弱くなっていると、壁面が剥がれ落ちて万一の事故に繋がる危険もありますので、補修工事が必要になります。

赤外線外壁劣化調査

赤外線外壁劣化調査

赤外線外壁劣化調査は、壁面を赤外線サーモグラフィーカメラで撮影し、異常箇所を発見する調査です。赤外線サーモグラフィーカメラを使用して温度分布を測定することで、異常個所を特定します。

高所など、打診棒では届かない壁面の調査に有効です。ただし、気象条件や日照時間の影響を受けたり、撮影距離が制限される狭い場所などでは撮影自体が困難な場合もあります。

シーリング材物性試験

シーリング材とは、サッシ周りや外壁のつなぎ目などに使用されるゴム状の材料です。シーリング材物性試験では、このシーリング材の伸び率などを計測し、基準を満たしているかどうかを判断します。

シーリング材は経年劣化すると硬くなりやせてしまう特徴があります。シーリングが切れた箇所から空気や水が侵入すると、住環境を損なうだけでなく建物の耐久性にも影響を及ぼすため、マンションでは大規模修繕工事のタイミングで打ち替えるのが一般的です。

コンクリート中性化試験

コンクリート中性化試験

アルカリ性のコンクリートには、内部の鉄筋を保護し、錆びにくくする役割があります。しかし、時間の経過と共にこのコンクリートのアルカリ性が抜けてしまうのが中性化という現象です。中性化は空気に触れるコンクリート表面から内部に向かって進みます。

コンクリート中性化試験では、外壁の一部から小さなコンクリート片を採取し、フェノールフタレイン溶液と呼ばれる薬剤を吹き付けます。この薬液はアルカリ性に反応するため、色の変化によって中性化の進行度を測定します。(写真の上部で色が付いていない部分はアルカリ性が失われている=中性化が進んでいる箇所です)

コンクリート簡易圧縮強度調査

コンクリート簡易圧縮強度試験

コンクリート簡易圧縮強度調査は、コンクリートの強度を測定するための調査です。シュミットハンマーと呼ばれる機器を使用してコンクリートに打撃を与え、反射した衝撃の強さからコンクリートの強度を推定します。この調査ではコンクリートに穴を開けることなく、非破壊的に強度を測定することができます。

鉄筋位置・かぶり厚調査

鉄筋位置・かぶり厚調査

鉄筋位置・かぶり厚調査は、電磁波を使用してコンクリート内部の状態を確認する機械調査です。電磁波をコンクリートに当てることで、鉄筋を覆うコンクリートの厚さや鉄筋の配置間隔を測定することができます。

無料診断と有料診断の違いは?

建物診断でも無料で実施されているものと有料のものがあります。その違いは何でしょうか。

無料診断の場合

無料の建物診断では、簡易的ながらも目視や触診、打診による診断が実施されるため、ある程度の状況は確認できます。しかし、あくまで無料なので、調査範囲や調査項目は限られている場合もあります。知りたい内容がきちんと網羅されているのかは事前に確認が必要です。

有料診断の場合

有料診断では個々の建物に合わせて目視調査や打診調査、機械調査を組み合わせ、より詳細に建物の現状を確認することができます。

大規模修繕工事の実施時期の判断や長期修繕計画の見直し、建物の余命が知りたいなど、大きな資金が動いたり、建物の将来的な運用に関わるような判断が必要な場合は、有償でも建物の状態がきちんとわかる調査診断を実施していただくことをお勧めします。

実際にどれくらいの費用がかかるのかは、建物の規模等によっても変わってきますので、見積もりを取り、予算と照らし合わせて信頼できる業者を選びましょう。

建物診断の流れと所要日数

一般的に建物診断は次のような流れで行われます。

1.打合せ
2.書類の確認
3.アンケート調査
4.建物の調査
5.調査報告書の確認
6.調査報告会

打合せでは建物診断の流れや診断内容などについての説明があります。実際に調査に入る前には図面や過去の修繕履歴の確認などを行うため、必要な書類を揃えておきましょう。

その後、アンケートの実施や調査スケジュールの調整など事前準備を経て、実際の建物調査に入ります。調査期間は、建物の規模にもよりますが、50~100戸程度のマンションであれば1~2日程度を要します。その後、結果をまとめた調査報告書が提出されます。

また、報告書とは別に、マンションの居住者(区分所有者)に向けて、別途調査報告会を実施する場合もあります。これは全員が建物の現状を正しく認識してもらい、今後の維持管理の方向性について理解と賛同を促すためです。マンション全体でこの考え方を共有しておくことは、将来に向けて必ずプラスに働きますので、管理組合内での広報を行い、多くの方に参加していただけるよう働きかけましょう。

建物診断で適切な大規模修繕工事を

本稿では、マンションの建物診断とはどのようなものなのか、その目的や内容についてまとめました。

大規模修繕工事では、まず建物の状態を正確に知ることが、現状に即した実施時期の判断や有効性の高い工事内容を組むことにつながります。建物は私たちにとって生活の基盤となる大切な資産です。長く安心して使い続けられるよう、きちんとメンテナンスを行い、しっかり守っていきましょう。

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