2021.08.31(最終更新日:2021.10.13)

大規模修繕前の建物診断は必要?診断項目や実施のメリットを解説

大規模修繕前の建物診断は必要?診断項目や実施のメリットを解説

大規模修繕工事に向けて準備が始まると、初めの方に実施されるのが建物診断です。大規模修繕工事のおおよそ1年~1年半前くらいになると実施されるマンションが多いようですが、一体どういった調査を実施するのでしょうか。
本稿では、建物調査の診断項目や実施のメリット、診断結果の活用法などについて解説していきます。

建物診断(建物調査診断)とは

建物診断(建物調査診断)とは建物の劣化個所や状態を把握するために行われる調査で、調査員が目視や機械調査で建物の状態を細かく確認していきます。また、コンクリートの状態から建物の寿命なども予測することができます。

とても頑丈で耐久性のある鉄筋コンクリート造(RC造)の建物ですが、時間の経過とともに少しづつ劣化が進んでいきます。そのため、長く安全に使い続けていくためには、定期的にメンテンナンスを行い、機能回復を図ることがとても大切です。

分譲マンションでは建物の劣化を防ぎ機能回復を図るため10~15年の周期で大規模修繕工事を実施しますが、その際、事前に建物の状態を把握するために建物診断が実施されます。大規模修繕工事の準備の一環として管理会社から提案を受けて実施されるケースも多いようですが、設計事務所、施工会社などを通じて行う場合もあります。

鉄筋コンクリート造の建物の寿命、「中性化」って何?

そもそも建物の経年劣化はどのように進行していくのでしょうか。建物診断の内容にも関係してきますので、まずは鉄筋コンクリートの劣化を進行させてしまう「中性化」という現象についてご説明します。
マンションに代表される鉄筋コンクリート造(RC造)の建物はその名の通り、コンクリートと鉄筋でできています。単体でもとても丈夫な素材ですが、「圧縮力には強い」が「引っ張る力には弱い」コンクリートと「圧縮力には弱い」が「引っ張る力には強い」鉄筋が組み合わさり、互いに補いあうことでさらに強度を増します。しかし、何らかの理由で両者の支え合う力が無くなってしまうと一挙に建物は弱くなってしまします。そして、それを促すのが「中性化」という現象です。鉄筋コンクリートは、素材同士、互いの長所を活かし短所を補い合う事でより強くなりますが、同時にアルカリ性のコンクリートには内部の鉄筋を保護し、錆にくくするという役割も担っています。そして「中性化」とは、このコンクリートのアルカリ性が経年により徐々に弱くなっていく現象を言います。

中性化が進み、コンクリートのアルカリ性が弱くなってしまうと鉄筋を保護する力も弱まり、錆びやすくなります。鉄筋は錆びると膨張しますので、周囲のコンクリートを押し出し、内部から割っていきます。こうなると建物の強度は大きく下がり寿命となります。

通常、コンクリートのアルカリ性は、空気に触れる建物の表面からゆっくりと失われていきますが、ひび割れや防水層の亀裂などがあると、水や空気がコンクリート内部に入り込み、中性化をいっそう進め内部の鉄筋を錆びさせてしまいます。そのため、建物を長持ちさせるためには、劣化が小さなうちに発見し直すことで、コンクリート内部の劣化を抑制することがとても大切になります。

建物診断ではこうしたコンクリートの中性化の進行度や建物に発生したひび割れ、発錆など建物に発生した劣化症状を目視や機械調査で診断していきます。

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建物診断の診断項目

では実際の建物診断ではどんな調査を実施するのでしょうか。具体的な項目について見ていきたいと思います。ここでは代表的な診断項目について解説していきますが、実際の建物診断では全ての項目を行うのではなく、目的に合わせて必要な内容を組み合わせて実施します。

1. 事前調査

建物診断を実施する前に竣工図書(図面)や過去の修繕や点検に関する書類を確認し、建物の構造や付属する設備、使用状況などについて現状を把握・整理します。

2. アンケート調査

バルコニーの状態や漏水の有無、使いづらい点など、主に生活をしている中で気づいた不具合や要望について意見を集め、現状を把握します。

3. 目視・打診調査

目視・打診調査

調査員が現地に出向き、外壁や廊下、屋上など共用部分を中心に劣化部分や損傷個所をチェックします。調査員が目視での確認と合わせ、打診棒という器具を用いて打診調査を行います。例えば、タイル面や塗装モルタル面は経年とともにコンクリート躯体との間に隙間ができてしまう場合がありますが、こうした劣化症状は見た目ではわかりません。打診棒で壁面をコツコツと叩き、返ってくる音の変化で内部の状態を判断します。

4. 仕上材付着力試験

仕上材付着力試験

目視・打診調査で問題のなかった壁面を使用し、仕上材(タイルや塗膜)が下地やコンクリートの躯体部分としっかり接着しているかを確認する機械調査です。仕上材との間に隙間ができていたり、付着強度自体が弱くなっている場合は剥がれ落ちる危険がありますので、補修工事が必要になります。

5. 赤外線外壁劣化調査

赤外線外壁劣化調査

壁面を赤外線サーモグラフィーカメラで撮影、温度分布を測定し、異常箇所を発見します。打診棒では手の届かない壁面の状態を調査するのに有効とされていますが、撮影に際して気象条件や日照時間に留意する必要があります。また、立地条件によっては、撮影自体が難しい場合もあります。

6. シーリング材物性試験

サッシ廻りや外壁のつなぎ目などに使用されているゴム状の材料をシーリング材といいますが、劣化が進むと固くやせてきます。シーリング材物性試験では、このシーリング材を一部採取し、伸び率などを計測し基準を満たしているかを確認します。

7. コンクリート中性化試験

コンクリート中性化試験

外壁の一部からコンクリートコア(円筒状のコンクリート)を採取し、フェノールフタレイン溶液を吹き付け中性化の進度を測定する試験です。アルカリ性のコンクリートにフェノールフタレイン溶液を吹き付けると赤紫色に着色します。しかし、中性化が進みアルカリ性が抜けてしまった部分には色が付きません。通常、中性化は空気に触れるコンクリート表面から内部に向かって進みまので、試薬を吹き付けた際、この色のつかない部分がコンクリート表面からどの程度広がっているのかを測定し中性化の進み具合を確認します。

8. 鉄筋位置・かぶり厚調査

鉄筋位置・かぶり厚調査

コンクリート表面に電磁波を当て、鉄筋を覆っているコンクリートの厚さや配筋状況、異物混入がないか等を測定する機械調査です。

6. コンクリート簡易圧縮強度試験

コンクリート簡易圧縮強度試験

シュミットハンマーという機器を使用し、コンクリートに打撃を与え、返ってきた衝撃により圧縮強度を推定します。削ったり穴をあけることなくコンクリートの強度検査が可能な手法です。

7. 調査報告書の確認・報告会の開催

建物診断の実施後は、調査の内容の報告とともに報告書が提出されます。図面や写真などと一緒に建物のどこに劣化や不具合があるのかが記載されています。調査員の所見と合わせ、工事内容の検討や建物の維持管理に役立てましょう。

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建物診断を行うメリットや活用法

建物診断には様々な診断項目があることがわかりました。次は建物診断を実施することのメリットや結果の活用法について解説します。

1. 建物の状態に即して工事内容を組み立てられる

分譲マンションの場合、建物診断は大規模修繕工事の前に実施されることが多いとお話しました。修繕工事の場合、建物の今の状態を正確に知ることが工事の内容を決定していく上で不可欠だからです。どこにどのような劣化症状がどの程度あらわれているのか、範囲はどれ位か、こうした建物の状態がわかってはじめて必要な補修工事の内容や範囲を決定することができます。

建物診断を実施することで、建物の現在の状態をしっかり確認できるので、大規模修繕の実施時期の検討や緊急度の優先付け、工事内容の組み立てに役立てることが出来ます。適正な工事内容を組み立てることで、必要な工事に必要な資金を効果的に配分することができます。

2. 災害の予防に

例えば、タイルには「浮き」という劣化症状があります。これは張り付けてあるタイルと建物本体との間に隙間ができてしまう劣化症状のひとつです。表面上は綺麗にタイルが貼られているように見えるのですが、何かのきっかけで剥がれ落ちてしまう危険があり、早急な補修が必要になります。目で見ただけではわかりませんので、調査員は打診棒という道具を使い、叩いた時の音でタイルと下地の状態を判断します。

このように建物には、ひび割れや錆など目で見てわかる不具合のほかにも、経験と共に様々な劣化症状が現れます。そして、万一、外壁タイルやコンクリート片の剥落(はくらく)などが起こってしまった場合、甚大な被害を引き起こす可能性があります。建物診断で懸念される故障箇所を未然に発見し、必要な予防措置を講じることで、安心・安全な住環境を整えることができます。

3. 今後の修繕計画の参考になる

分譲マンションには「長期修繕計画」という計画表があります。向こう25~30年の修繕計画や収支がまとめられ、いつのタイミングでどのような修繕工事が必要になるのか、そのためにはどれ位の費用がかかり、積立の状況はどうなのか細かく記載されています。

この「長期修繕計画」は1度作成したら終わりというわけではなく、定期的に、できれば5年に1度程度は見直しを行うことが望ましいとされています。理由のひとつは「長期修繕計画」は修繕積立金や管理費を算出する上での論拠ともなっているためです。しかし、当初は整合性が取れていた計画表も、建物の劣化の進行具合や物価や人件費の変動、突発的な補修工事の発生など様々な要因が影響し、時間の経過と共に多少なりともずれが生じてきます。もしも、こうしたずれを長年放置し修繕積立金の設定額を低く見積りすぎていると、いざ大規模修繕工事を実施しようとした時に、費用が十分に貯まっておらず、必要な工事が実施できないといった事態も招きかねません。

このように「長期修繕計画」はマンションを管理運営していく上で非常に大切な計画書ですが、同時に現状を反映して定期的な更新が必要になります。建物診断や大規模修繕工事を実施したタイミングは、「長期修繕計画」を現状に合わせて見直す絶好のタイミングです。修繕積立金をはじめとする収支についても検証し、管理組合内で将来の備えについてもしっかり協議し準備をしていきましょう。

建物診断をマンションの維持管理に活かそう

大規模修繕工事の前に建物診断を実施するのは、建物の現状をしっかり知り、効果的な工事内容を組み立てるためです。また、現状がわかることで将来的な工事のタイミングや費用も予測し、準備ができるようになります。全体的な資金の状況がわかれば、直すことに加え、機能向上項目などマンションの価値を高める工夫にも目が向きます。

建物診断で建物の状況をきちんと把握し、管理に活かしていくことは建物の長寿命化への第一歩です。そして、管理組合の皆様が日頃から積極的に建物の維持管理に関心を向けていただくことが築年数を経てもなお魅力的なマンションへと進化していくためにはとても大切です。

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