最終更新日:2023.05.29
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大規模修繕工事の進め方は?流れと注意点を解説

大規模修繕工事の進め方は?流れと注意点を解説

分譲マンションでは12~15年に一度くらいのペースで、大規模修繕工事が実施されます。大規模修繕はマンションの劣化を防ぎ、資産価値を維持するためのものですが、どのようなプロセスで行われるのでしょうか。

本記事では、大規模修繕工事の進め方と注意点について解説します。マンションを所有される方はぜひ知っておきましょう。

大規模修繕工事とは

大規模修繕工事とは、経年に伴って起こる建物の劣化を防ぎ、マンションの資産価値や居住性を保つために行われる工事のことです。

一般的に12~15年位の周期で行われることが多く、マンション全体に足場を掛け、数ヶ月をかけて工事を実施します。外壁塗装やタイルの補修、防水工事、鉄部の塗装などいろいろな工事をまとめて行うため、費用も高額になる傾向があります。

実際に大規模修繕工事が決まってから費用を貯めるのでは間に合わないため、マンションの所有者は管理費とは別に修繕積立金を毎月収め、その積立金を使って大規模修繕工事の費用に充てることになります。

大規模修繕工事の進め方

大規模修繕工事の進め方

大規模修繕工事の進め方は、いくつかのステップに分かれています。
大規模修繕工事の手続きをスムーズに進めるためには、各ステップと全体の流れを知っておくことが大切です。今回は、大規模修繕工事の準備から竣工までの流れと進め方について解説します。

1.管理組合内の体制づくり

まずは、管理組合内での体制づくりを行います。理事会が主導する場合も多いですが「修繕委員会」といった専門委員会を設置する場合もあります。

理事会は通常の組合運営業務も担当していますので、そこに大規模修繕工事の準備に係る業務が加わるとその量は膨大になります。そこで、理事会の下部組織として設置されるのが「修繕委員会」です。修繕委員会は大規模修繕工事に関わる業務を担当し、工事に関する内容の検討を行い理事会に提案します。最終的な方向性を決定するのは理事会になりますが、工事内容の検討、調査への立ち会い、説明会の実施、工事中の打合せや進捗管理など、その役割は準備段階から完工まで工事全体に深く関わってきます。メンバーに専門的な知識をお持ちの方がいれば力強くもありますので、修繕委員会を結成する際には、過去に大規模修繕工事を経験された方や建築関係に明るい方がいれば声を掛けてみるのも一案です。

また、修繕委員会は必ず設置しなければいけないという組織ではありませんので、管理組合の実情に応じて対応していきましょう。修繕委員会を設置しないかわりに、引継ぎ時のロスを減らすため、大規模修繕工事を機に理事の任期を1年から2年に変更し、半数交代制にするといった対応をされている管理組合もあるようです。

2.工事の発注方式の決定

大規模修繕工事は専門的な知識や視点が求められますので、通常、準備段階から外部の専門家と契約し、工事の設計や監理、実際の工事を行います。代表的な発注形式に「責任施工方式」や「管理会社主導方式」、「設計監理方式」があります。「責任施工方式」とは管理組合が施工会社と直接契約する方式です。対して、「管理会社主導方式」は管理会社に工事を発注する方式です。「設計監理方式」は発注者と施工する会社とは別に第三者としてコンサルタントが加わります。コンサルタントが工事の設計を行い、施工会社はコンサルタントが作成した工事仕様書に基づき工事をします。また、工事中はコンサルタントが管理組合に代わり、専門家の視点で工事の監理も行います。

発注方法を選ぶ上で、自分たちが信頼して任せられるかという点か一番大切ですが、業態ごと、会社ごとに特色もあります。発注方式をどうするかは大規模修繕工事における大切なポイントですので、協議を重ね、慎重に検討しましょう。

3.建物診断の実施

パートナーを決めたら、次に行うのは建物診断です。調査員が実際に建物に訪問し調査を行います。建物に現れる様々な変化から、どこにどのような劣化症状がでているのか、また補修の緊急度はどの程度か、目視や機械調査も併用して判定していきます。調査で得られた結果は大規模修繕工事の時期や工事内容を決定するベースとなります。修繕の第一歩は現状を知ることです。建物診断をきちんと実施し、修繕計画に役立てましょう。

4.修繕計画・予算を立てる

建物診断で建物の現状がわかったら、次に工事の実施時期や工事内容を検討していきましょう。建物診断で劣化が進んでいると判定された箇所は優先的に修繕計画に組み込んでいく必要があります。対して、状態の良い箇所は次回の大規模修繕工事まで維持できるような処置に留め、その分の費用で、要望の多い改良工事を実施するなどメリハリをつけた予算の使い方を考えていくことも大切です。手すりや自動ドア、オートロックの設置など、安全性や利便性に寄与する改良工事は住人の生活の質も向上しますので、工事に対してより高い満足度を感じていただくことが多いようです。

また、大規模修繕工事の資金には修繕積立金が充てられますが、積立金が不足している場合には、工事内容の見直しや一時金の徴収、融資を受ける、または工事の時期自体を見直すといった対応策を検討する必要があります。同時に、修繕積立金は将来的に予定されている工事のための費用でもありますので、目の前の工事に留まらず、将来的な計画まで踏まえて使い方を考えていきましょう。今後20~30年にわたる収支の状況は長期修繕計画で確認ができます。大きな金額が動く大規模修繕工事の際には必ず見直しを行いましょう。将来的に積立金の不足が予見される場合には、計画内容や積立金額の見直しなど対策も踏まえ、考えていくことが必要です。

5.施工会社の選定

工事の内容や予算が決まったら、施工会社の選定に移ります。施工会社を決定する際には、複数の会社から見積をとり、比較検討をするのが一般的です。施工会社は専門紙やインターネットなどのメディアやマンションの掲示板などを利用して公募をします。書類選考で数社に絞ったら、「ヒヤリング」と呼ばれるプレゼンテーションの場を設け、各社に工事への取り組み方、会社の体制、アフターサービスの内容などを発表してもらいます。

施工会社を決定する際、費用は非常に重要な判断材料のひとつですが、同時にこれまでの施工実績や経験、工事への意気込みといった質の部分、また財務状況など経営の安定性もしっかり見て総合的に判断することが大切です。工事の仕上がりは建物の耐久性や資産価値にも影響します。補修が適切に行われていないと劣化症状がすぐに再発し、結果として余分な費用や手間がかかるといったことにもなりかねません。また、施工会社とは工事中はもちろん、施工後もアフター点検などを通じて長年にわたる付き合いが始まります。建物のことを安心して任せられる施工会社を、様々な角度から検討して選びましょう。

6.総会決議

大規模修繕工事についての概要が決まったら、総会を開催します。組合員に向け、修繕の目的やどんな工事を実施するのか、いつから行われるのか、どのくらいの期間になるのか、どの施工会社に依頼するのか、どのくらいの費用がかかるのかといった工事計画について報告をします。この総会で、組合員の承認を得ることができて、はじめて正式に工事の発注ができるようになります。

大規模修繕工事は組合員の理解を得られて初めて実施できる工事です。そのため、選考や決定の過程においても公平性・透明性が保たれていることがとても大切です。建物診断でわかった建物の劣化状況、工事の方向性、予算の用途、施工会社の選定理由など、理事や修繕委員など関係する方たちの間では十分に議論を重ねていると思いますが、組合員に向けてもわかりやすく明確に説明ができるように準備をしましょう。

また、総会に至るまでの過程においても、報告会や広報誌の作成、場合によっては臨時総会を開催し、組合内での意見の吸い上げや調整を行いましょう。準備の段階でこうしたコミュニケーションを丁寧に行うことが組合員の合意形成を促す上でとても大切です。

7.工事説明会の実施

総会で大規模修繕工事実施の承認が得られたら、決定した施工会社と契約を締結し、工事の準備に入ります。着工の1ヵ月程度前に工事説明会を実施し、組合員や居住者に工事の概要や注意点などを説明します。特に安全上の留意点や対策、日常生活への影響については時間をとって丁寧に説明しましょう。大規模修繕工事は住みながらの工事になりますので、住んでいる方々のご理解・ご協力が欠かせません。ここで上がった意見や懸念点はパートナーや施工会社も共有し、極力生活に影響がでないよう対応策を検討しましょう。

8.着工

工事説明会、そして近隣へのご挨拶などが済みましたら、いよいよ着工となります。

大規模修繕工事の場合、事前に綿密な施工計画を立てていたとしても、足場か掛かり、実際に施工箇所を確認して初めてわかる不具合などもでてきます。工事期間中は理事会や修繕委員会とパートナー、施工会社とで定期的に打ち合わせを行い、こうした変更箇所の確認や工事の進捗、住人からのご要望などを共有し、工事がスムーズに運ぶよう各種調整や意見交換を行います。

同時に欠かせないのが居住者に向けた広報活動です。工事中はマンションの周りに足場が建ちます。大きな音がしたり、多くの作業員や工事車両が出入りしたり、マンションを取り巻く環境が普段とは大きく変わります。ストレスに感じる方も出てきますので、普段の生活への影響を極力抑える配慮はとても大切です。特に居住者の生活に直接影響のある事柄や安全に関する注意点は、工事中に設置される掲示板や各戸へのご案内チラシの配布なども使い、必ず事前にお知らせしましょう。工事中も居住者が安心して生活できる環境を整える姿勢や配慮が運営側への信頼につながり、工事に対する居住者の理解や協力に繋がります。

9.竣工・引渡し

工事が無事進行し、終盤になると竣工検査を行います。この検査は工事完了前、足場のかかった状態で行われます。施工箇所について、管理組合、パートナー、施工会社で確認を行い、不具合が見つかった箇所は、手直しを行い、完了後に改めて確認を行います。

竣工検査を経て、無事工事が完了すると竣工・引渡となります。竣工時には工事の内容を記録した「竣工図書」を受け取ります。竣工図書はマンションを維持管理していく上での大切な記録となりますので、大切に保管しましょう。

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大規模修繕工事の流れを知ってマンションの運営に役立てよう

大規模修繕工事は専門的すぎて自分ではとても…と躊躇される方も多いですが、ご自身の資産を守る一環としてとらえて携わってみると、また違った一面が見えてくるかもしれません。実際、大規模修繕工事にたまたま理事として関わったことで、自分のマンションや管理組合の運営について真剣に考えるきっかけになったというお話も伺います。

大規模修繕工事は建物の劣化を防ぎ、維持管理していくための工事ですが、同時にマンションにとっては、今後の方向性を決定づけていく大きなターニングポイントにもなります。工事の内容を組み立てていく上で、資金面での検証や現状とのバランス、マンションの将来像など様々な可能性を検討して進めていく必要があるからです。建物としての資産価値向上を目指すことはもちろん、大規模修繕工事をマンション内部の活性化や将来像を考えていくための大きなチャンスととらえ管理組合として上手に活用していきましょう。

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