- 最終更新日:2024.08.22
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大規模修繕工事って何するの?工事内容を解説!
鉄筋コンクリート造のマンションはとても頑丈な造りをしていますが、それでも雨風や日射の影響を受け、少しずつ少変化が進んでいきます。そのため、定期的にメンテナンスを行い、建物の安全と資産価値を維持していく必要がありますが、その中でも足場を掛けて行う特に大掛かりな工事を大規模修繕工事と呼びます。大規模修繕工事はさまざまな工事内容で構成されており、劣化の状況や築年数、目的等によって注意すべきポイントもかわってきます。
適切なタイミングで、適切な工事を行うためにも、大規模修繕工事本来の目的や内容をきちんと把握しておくことはとても大切です。そこでこの記事では、大規模修繕工事とはどういった工事なのか、内容や期間、費用の目安なども踏まえて紹介していきます。
Contents
大規模修繕工事とは
大規模修繕工事は、年数の経過によって起こる建物の劣化部分や故障個所を補修し、機能を回復させることを目的にして行われる工事です。マンションは建築基準法に基づいて建てられているので、基本的に建物として最低限の安全基準は担保されています。しかし、どれだけ優れた技術や建築資材を使っていても、築年数の経過とともに進む経年変化は防げません。
分譲マンションの場合、修繕計画は管理組合が主導することになります。その計画の中でも、特に12~15年位の間隔で実施される足場を掛けるような大掛かりな工事を大規模修繕工事と呼びます。主な工事内容としては、外壁やタイルの補修工事、シーリング工事、防水工事、塗装工事などがあげられます。対象となるのは主に共用部分ですが、大規模修繕工事は工期が長く、費用も高額になるため計画性をもって行うことが大切です。
大規模修繕工事が必要な理由
マンションにも寿命があります。頑丈な造りではありますが、風雨や日射の影響を受け年月とともに少しずつ少しづつ経年変化が進みます。こうした経年劣化による影響をできるだけ抑え、建物を長く安全に使っていくためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。
鉄筋コンクリート造の建物を守る上で一番大切なことは、コンクリート内部の劣化を抑制することです。鉄筋コンクリートの内部には鉄筋が配置されており、コンクリートと鉄筋双方の長所・短所を補い合うことで高い強度を実現しています。通常、劣化は空気に触れる建物の表面から内部に向かってゆっくりゆっくりと進んでいくのですが、ひび割れなどがあると水や空気がコンクリートに入り込み、内部の鉄筋を錆びさせます。錆びた鉄筋は膨張し、周囲のコンクリートを押し出す強い力となり内側からコンクリートを割っていきます。こうなると建物の強度は大きく低下してしまいます。こうした内部に至る深刻な劣化を予防するためには、ひび割れなど劣化が軽度のうちに発見し、直すことが大切です。
例えば、マンションの外壁に発生したひび割れを全体的に確認して直すには足場が必要になりますので、工事では建物周囲に足場を設置します。その際、外壁の補修以外にも足場がないと出来ない工事を色々とまとめて行うことが多くあります。これは、足場の設置にも多額の費用が発生するため、個別に工事をするよりもまとめた方が経済的だからです。結果として大掛かりな工事=大規模な修繕工事になります。
また、大規模修繕工事を適切な時期に行うことは、快適性や資産価値といったソフト面でも大きなメリットがあります。経年劣化は放置すればするほど酷くなるため、適切なタイミングで大規模修繕工事を行ってきたマンションとそうでないマンションでは、年数が経つにつれて見た目の美しさや快適性の面で大きく差が広がります。加えて、防犯設備の強化やバリアフリー化など新しいライフスタイルに対応した改良工事も実施していくことで、時代に即した暮らしやすさや安全性を実現し、対外的には資産価値を高めることにつながります。
「修繕」と「改修」の違い
大規模修繕工事のことを調べていくと「修繕」や「改修」といったワードをよく耳にします。
実際、使い分けについて明確な決まりがあるわけではありませんが、一般的に「修繕工事」というと「建築当時の水準まで機能・性能を回復させることを目的とした工事」を意味して使われることが多いようです。傷んでいる箇所や不具合が発生している箇所について、補修や部材の取り替えなどを行い、問題なく使用できる状態にまで性能を回復させる工事です。マンションの場合、日々の使用の中で発生した不具合を直すための小規模な修繕工事があります。また、これとは別に、12~15年位の間隔で、建物全体の維持管理を目的とした大掛かりな計画修繕が実施されます。これが大規模修繕工事です。
一方で、「改修」は「機能の維持や回復に留まらず、建物全体の機能・性能面をさらに進化させ、住みよいマンションにしていくことを目的とする工事」を意味して使われます。新築時から年月が経つと、住まいを取り巻く社会的環境や私たちの暮らし方も少しずつ変わっていきます。また、設備や材料の進歩により建物の性能や居住性も大きく向上しています。しかし、修繕工事だけではマンションを維持するための機能回復しか実現することはできませんので、改修工事では機能回復に加え、設備や性能をグレードアップし、現在の水準に見合うようにマンションを進化させる項目を実施します。代表的な例としては、高性能サッシや玄関扉への交換工事、オートロックの設置、バリアフリー化などが挙げられます。
大規模修繕工事の3つのポイント
ここからは大規模修繕工事にかかる費用の目安や工事期間、周期などを紹介していきます。
大規模修繕工事にかかる費用
工事費用のおおまかな目安として、戸あたり130~150万円とも言われていますが、これはあくまでも目安であり、マンションの規模や工事の内容によっても異なります。
また、区分所有者が大規模修繕工事の際にそれぞれの負担分の費用を一括で支払うことはあまりありません。一般的には管理組合が「修繕積立金」として、各組合員(=区分所有者)から毎月徴収して積み立てており、大規模修繕工事の費用もここから捻出されます。マンションの大規模修繕は住人全員の利益にかなうことですが、いざ実行するときに一括で徴収することは区分所有者にとって大きな負担となり、また一部の人だけ支払えないとなるとトラブルの原因になります。そのような事態を避けるために、管理費と同じように毎月徴収して1回あたりに支払う負担を軽くしているというわけです。
大規模修繕の費用を詳しく知りたい方はこちら >
大規模修繕工事に要する期間
マンションの大規模修繕工事に要する期間は、「準備期間(計画から着工まで)」と「工事期間(着工から工事完了まで)」の大きく2つに分けられます。
準備期間(計画から着工まで)
あらかじめマンション内で工事の目的や内容について共通理解があった場合は早くなることもありますが、一般的に計画から着工までは1~2年程度かかります。
大規模修繕工事はマンションで暮らす方が皆で使用する共用部分がメインの工事になります。当然、多くの方に影響が及びますし、管理組合の承認なしには計画を進めることはできません。大規模修繕を成功させるためには、マンションで暮らす方々の理解と協力が不可欠です。計画を主導する理事会や修繕委員会は、工事のパートナーの選定、建物診断の実施、計画の策定などの準備を進めると同時に、住人に向けた説明会や丁寧な広報活動も心がけましょう。
工事期間(着工から工事完了まで)
着工から工事完了までは、50戸以下の小規模マンションでは3~4ヵ月程度、50~100戸位の中規模マンションでは4~6ヵ月程度、100戸を超える大規模マンションでは半年から1年程度が目安となります。
着工後は建物周囲には足場が建ち、作業員や車両などが頻繁に出入りをします。洗濯物干しや窓開け、バルコニーの使用などに制限がかかることもあります。工事に関わる専門家や施工会社とはしっかりコミュニケーションをとり、日常生活へのストレスを極力抑える工夫が必要です。
大規模修繕工事の期間を詳しく
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大規模修繕工事の周期と回数
大規模修繕工事を実施する時期や回数に決まりはありません。基本的にはマンションの劣化状況に応じて各管理組合が主導して実施するかどうかを判断します。
ただし、目安となる周期がないわけではありません。一般的には12~15年位の間隔で実施する場合が多いようです。これは、国土交通省が発表している「長期修繕計画作成ガイドライン」で示されていることや、建材の保証期間が10年程度で設定されているケースが多いことも要因となっています。
一方で、近年は工事で使用する材料も進化しており、例えば、大規模修繕工事の際に耐久性や防汚効果に優れた製品を用いることで、修繕周期を15年・18年と延ばし、費用を抑える工夫を検討するマンションも増えてきています。
実際に工事に取り掛かるかどうかは、建物の状態から総合的に判断する必要がありますが、前回の修繕から10年を超えた位から大規模修繕工事の実施について検討を始めるマンションが増えてくるようです。
大規模修繕工事の内容
大規模修繕工事の大まかな流れ
まずは管理組合内で大規模修繕工事を実施するための体制づくりが必要です。理事会が主導する場合もありますが、修繕委員会などの専門委員会を設置する場合もあります。任期1~2年で交代をする理事と違い、修繕委員は計画段階から工事が完了するまで務めるのが一般的です。その為、継続的な対応が可能になるほか、修繕工事以外の業務も抱える理事の負担軽減などのメリットもあります。
管理組合内の体制が固まったら、次に「建物調査」で現状を確認し、その結果に基づいて「工事内容や予算案を検討」していきます。建物調査によって、早急に対処が必要な個所と機能を維持できていることから緊急性を要しない箇所を洗い出し、優先順位を精査して、予算を上手く充てていくことが大切です。ただし、工事の専門家でない方が細かな工事内容について判断するのは難しい場合が多いでしょう。適切な工事内容を組み立てていくためには、建物調査の段階から専門知識を持った人に参加をしてもらい、アドバイスを取り入れながら計画を進めていくことお勧めします。計画が固まり次第、「施工会社の選定」、「居住者向け工事説明会の開催」等を経て、いよいよ工事が始まります。
ステップ1:仮設工事
工事が始まったときに、まず行われるのが仮設工事です。仮設工事では、足場やその周囲を覆うメッシュシート、現場事務所、資材置き場など工事を行うために必要な設備を設置します。工事が終わった後には撤去してしまいますが、工事を安全に進め、品質を確保するためには欠かせない大切な役割を担っています。
ステップ2:下地補修工事
下地補修工事では、壁や天井などコンクリート躯体部分に生じたひび割れなどを補修します。下地補修の良否は後の工程にも大きく影響します。仕上げの塗装をどれだけきれいに仕上げても、下地の状態が良くないと症状がすぐ再発するといったことにもなりかねません。建物の耐久性や寿命にもかかわる大切な工程です。
ステップ3:タイル補修工事
年数の経過とともにタイルが下地から浮いてきたり、ひび割れたりすることがあります。そのままにしておくとひびから入った雨水がコンクリートを傷めるほか、剥がれたタイルやコンクリートが落下し通行人に危険が及ぶといった事態にもなりかねません。
大規模修繕工事では、作業員が足場にのぼって建物全面のタイルの状況を目視や打診によって確認し補修していきます。耐久性や防水性が回復するのはもちろん、安全の確保にもつながります。また、見た目も美しくなります。
ステップ4:シーリング工事
サッシ廻りや外壁のつなぎ目に使用されることの多いゴム状のシーリング材は、年数が経つことで硬化しやせてきます。雨水やほこりなどの汚れはほんのわずかな隙間からも侵入します。見た目には異常がなくても、サッシと壁の間や外壁目地のわずかな隙間が雨漏りの原因になるケースも珍しくありません。
また、シーリング工事には足場が必要になるため、大規模修繕工事の際に一緒に打ち替えをするのが一般的です。シーリング材を新しくすることで防水性や気密性を高めることができます。
ステップ5:塗装工事(外壁)
塗装には美観のほか、雨水や汚れからマンションを守るという大切な役割もあります。劣化が進み下地との接着力が弱くなると塗装が剥がれ、その部分から侵入した雨水などがコンクリートを徐々に傷めていきます。
大規模修繕工事では、まず下地と塗料との付着力を確認します。付着力に問題がない場合は上から塗料を塗り重ねますが、付着力が弱い場合には現状の塗料を除去して、新たに塗装をし直す場合もあります。
ステップ6:塗装工事(鉄部)
扉や外部階段、手すりなどに使用されることの多い鉄は年数が経過すると錆びが発生し、見た目や耐久性に問題を引き起こします。錆が発生している箇所はサンドペーパーやワイヤーブラシなどを使って丁寧に錆びを落とし、塗装を重ねてしっかり保護をすることで、見た目と耐久性の両方が改善します。
ステップ7:防水工事
雨水や汚れなどからコンクリートを守るための工事です。防水工事には「塗膜防水」や「シート防水」など様々な工法があり、屋上やバルコニー、廊下、階段などが対象になります。防水層にひび割れ、ふくれ、破れ、しわなどの症状が見られる場合は、補修が必要なサインです。
その他付随工事
そのほかにも必要に応じて工事を行うケースがあります。たとえば、エントランスの改修工事、玄関扉やサッシの交換工事、給排水管の更新・更生工事などもそのひとつです。
エントランスの改修工事では、自動ドア化、オートロック設置のほか、近年では段差の解消や手すりを設置するバリアフリー化なども人気の項目です。
また、玄関扉やサッシの交換工事は見た目がきれいになることはもちろん、「玄関ドアが軽い」「エアコンの効きが良くなった」など、工事の成果を暮らしに直結して実感できるため人気の高い項目です。
また、給排水設備については、長年の使用によって劣化が進むと漏水事故に繋がるため、築30年を超える建物では一度点検をしていただくことをお勧めします。設備工事にはそのほかにも、ガス設備や電気設備、防災設備など非常に多くの項目があるので、事前にどれだけの設備があるかを把握しておくことも大切です。
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2回目以降の大規模修繕工事について
大規模修繕工事は1回目と2回目では実施する内容も少し異なってきます。新築間もない1回目では、基本的な内容を実施する場合がほとんどですが、築20年を経過してから実施する2回目のタイミングでは、雨や紫外線などの影響が本格的な劣化となって表れるため、今一歩踏み込んだ内容が必要になります。
さらに3回目を迎える頃には、劣化症状がさらに顕著に表れる他、給排水管、サッシ、玄関ドア、電気設備なども更新の時期を迎えます。また新築時から30年以上経過している場合がほとんどですので、時代に合わせた設備面でのグレードアップのニーズもでてきます。今後を見据えた時、建物にとっても大きな節目と言えますので、このタイミングで資金が足りず必要な修繕すら実施できないということのないよう、資金計画は定期的に見直しを行い、早いうちから備えておくことが大切です。
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大規模修繕工事のよくあるトラブル - 事前にできる対策とポイント
「管理組合内の意見がまとまらない…」
大規模修繕工事の際には、多くの場合、理事会や修繕委員会が管理組合の代表として工事を主導します。その際、大切になるのが組合員の皆さんに向けた広報活動の徹底です。パートナーや施工業者の選定、工事項目の検討など、大規模修繕工事の準備が始まると、様々な検討事項があがってきます。方向性の決定に際し、組合員に向けた説明会を開催し、途中経過や経緯の説明、意見聴取など広報活動を重ねましょう。特に大規模修繕工事では大きなお金が動きますので、一部の方の意見が強く反映されたり、そのように見えてしまうことは不満が生まれる原因にもなります。工事をスムーズに運ぶためには、公平性や透明性を保ち、管理組合全体で方向性を共有できることがとても大切です。
また、積立金不足や賃貸化が進んだマンションなど合意形成に至る上で高いハードルがある場合は、マンション管理士等外部の専門家のサポートを受けるのもひとつの方法です。管理組合内だけで議論を進めていると折り合いがつかず、停滞してしまう場合もありますので、第三者的のアドバイスを受けることで、公平な視点が得られ、議論を前に進める効果も期待できます。
※その他、大規模修繕工事で起こる可能性のあるトラブル例、対応策が気になる方はこちら
「工事開始後に施工箇所が増え、予算を大幅に超えそう…」
外壁のひび割れやタイル補修など、工事項目の中には実際に足場が建ってからでないと劣化の状況を直接確認できない箇所もありますので、当初の予定より金額の増減・減額が生じることがあります。ただし、工事開始後に思いがけない不具合や故障が立て続けに見つかり、追加工事が次々と必要になるといった状況は望ましくありません。こうした事態を避けるためにも、事前にきちんと建物診断を行いましょう。現在の建物の状態を踏まえ、適切な補修と機能向上が図れるよう資金面とのバランスも考えながら工事の内容を計画していくことが大切です。
「仕上がりが思っていたのと違う…」
事前に材料のサンプルが手に入る場合はぜひ確認しましょう。サンプルは蛍光灯の下だけで見るのではなく、屋外の日当たりや日陰など実際の使用環境で確認するとより近しいイメージが掴めます。また、工事が始まる前に本番と同じ材料や工法で部分的に「試験施工」を行う場合もあります。塗料など、そのままでは実際の色味や質感まではわかりませんので、部分的に施工をして工法の確認と同時に、色合いや仕上がりの状態を確認します。
外壁にタイルを使用しているマンションでは、補修の際に部分的にタイルの張替えが必要な個所が出てきます。その際、市販品で対応するか、現状に近いタイル(近似タイル)を新たに作ることになります。仕上がり時の色むらを極力避けるためには近似タイルを作っていただくことをおすすめします。施工前にサンプルを作成し、色、柄、質感、目地の色などを現状のタイルとよく比較検討しましょう。
「トラブル発生、どうしよう…」
例え万全の準備をしていても、工事が始まると想定しなかった事柄が発生することもあります。そうした場合、まずは慌てずに施工会社など工事の窓口となっている人に相談しましょう。工事中は進捗状況や仕様に関する確認、居住者からいただいたご意見の共有や対応など、管理組合と工事関係者の間で綿密にコミュニケーションをとりながら進めていくことが大切です。全体の流れがスムーズに運ぶよう、より良い協力関係を築きましょう。
まとめ
鉄筋コンクリート造のマンションは適切にメンテナンスを実施すれば、100年以上の使用に耐えると言われています。大規模修繕工事は単なる劣化補修に留まらず、マンションで暮らす皆様の安全で快適な生活、そしてマンションの寿命と資産価値を守るとても大切な工事です。専門的な内容も多いため、専門家の力も上手に借りながら、ご自身でも知識を深め、未来に向けてより良い住環境が実現できるよう積極的に参加していただければと思います。